2009.09.26 Sat
31.【蒼白の月に啼く獣3-6】
「恭司郎様。田上さんにも許可を貰いましたので、今日はこのピアノで遊びましょう。」
と、西門はピアノの鍵盤の蓋を上げながら狂司郎に声をかけた。
西門の後をついて広間に入ってきて、戸惑うように視線を動かしていた狂司郎は、その言葉に足と止め、じっとピアノに視線を向ける。その無表情な視線からは、今、狂司郎が何を思っているのか、全く読めない。
西門が適当に鍵盤を叩き、音を出す。狂司郎がその音に引かれるように西門の傍に来た。
「恭司郎様は弾いた事ありますか?
僕は小さい頃から武道に夢中だったので、楽器って全然ダメなんですよ。
小学校で習ったリコーダーも散々でした。
かっこよくピアノが弾けたらいいのにな~なんて憧れてたんですけどね。」
そう苦笑しながら、西門はデタラメにポロンポロンと鍵盤で遊ぶ。
西門の傍でじっとその指の動きを見ている狂司郎を、椅子に座るように促す。
迷っているような仕草を見せつつも狂司郎が椅子に座り、そのまま鍵盤から視線を外さない。
「恭司郎様もやってみましょうよ。弾けなくても音が出るって楽しいですよ。」
それでも鍵盤を見つめたまま固まっていた狂司郎だったが、やがてそろそろを手を伸ばし鍵盤を押さえる。
何度か確かめてでもいるかのように、小さな手の細い指で音を出していたが、突然、両の手を鍵盤に構えると何かの曲を弾き始めた。
ピアノの曲に疎い西門にはそれが何の曲なのかはわからないのだが、それでもちゃんとした曲になっているのは分かる。
時々、音を外して弾きなおしたり、指が止ったりと思い出しながらのようにして弾く狂司郎は、ピアノに夢中になってきているようだった。
狂司郎がピアノを弾くとは思いもしなかった西門は驚き、しばらく聴き入っていた。
ピアノを弾くという、予想していなかった狂司郎の一面を知り、感動のようなものを感じていた西門は軽い興奮を覚え、曲が終わったのか、ふいにピアノを弾く手を止めた狂司郎に、
「恭司郎様すごいです!ピアノ弾けるんですね。
誰に教えてもらったんですか?他にも何か弾けます?」
と、聞いた瞬間に、西門は自分の失言に気づいたが、遅かった。
目で見て取れるほどビクリと肩を震わせた狂司郎は、一瞬の間のあと、飛び降りるようにして椅子を降り、広間の入り口に向かい走り出し、ドアを開け出て行ってしまった。
テキスト by 流々透雫
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