Möelva-B×B-

絵師集団ciliegioによるオリジナル作品オフィシャルブログです。男同士の恋愛が苦手な方は閲覧をご遠慮ください。

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雪の螺旋

 2週間、日本で休暇を過ごすこととなっている青年は、勝手知ったる他人の家…という感じで、久世家の艶やかに磨かれた廊下を歩いていく。

 彼は、ネーヴェ・オリヴィエーロ・エンブリオーネ(Neve Oliviero Embrione)。

 古くからのシチリア系マフィアであるエンブリオーネ・ファミリーの、次期ボスの座を約束された青年である。
 透き通るような白い肌に、琥珀の瞳、ヘーゼルナッツ色の柔らかな髪をしたネーヴェの実家と九頭竜会とは旧知の仲で、お互いにまっとうな輸入雑貨の会社を通じての取引相手でもあった。
 日本家屋のその厳粛たる佇まいに圧されることなく、堂々とした足取りで歩く姿は、異文化の地で育った17歳とは思えない落ち着きと馴染みを感じる。
 そんなネーヴェが、廊下一番奥にある部屋の前で立ち止まった。


「雪、入っていい?」


 涼しげで美しい容姿に合った、少し低く甘い声、しかも流暢な日本語で問いかける。
 襖より少し厚い引戸の向こうから、「いいよ」と返答があったのを確かめて、ネーヴェは静かに戸を開けた。


「雪、なにしてんの?」
「宿題。ネーヴェ、物理教えてよ」
「……」


 要求したことへの回答が沈黙なので、雪耶が訝しげに机の横に立つ青年を見上げる。


「何?」
「…雪耶は、勉強好きだね」
「んなわけないじゃん」
「ぼくが日本に来てから、この時間はいつも勉強じゃないか」
「宿題だから仕方ないだろ。それにネーヴェが来てからまだ二日しか経ってねーじゃん」
「雪が相手をしてくれなくて、僕は淋しいのに…」


 雪耶の隣に腰を下ろしたネーヴェは、ゴロゴロと犬がじゃれ付くように雪耶の脇から腕と頭を入れ込んで、胸元に縋りつく。


「こらっ!やめろよ!くすぐったいだろ」
「ん~雪耶、昔からちっこくて抱き心地がいい。ぬいぐるみみたいだ」
「ちっこい言うなっ!つか、昔はネーヴェだってちっこかったじゃんかよ!」


 雪耶の胸に埋めた頭をぐいと引き離されて口を尖らせたネーヴェが、今度は恨めしそうに雪耶を見上げた。


「雪は…つれない」


 ネーヴェがしゅんとした顔を作ると、雪耶の表情がすぐさま困ったようになる。それを見て、ネーヴェは心の中でほくそえむ。


 ネーヴェは、幼少の頃は体が弱く病気がちな少年だった。
 エンブリオーネ・ファミリーの跡取りとして成長してもらわねばならないが、このまま成長してもファミリーを継ぐ事は出来ないだろうと誰もが思っていた。
 誘拐や後釜を狙う暗殺などを避けるため、兄弟も、歳の近い遊び相手もいない、周りが大人ばかりの世界で過ごしていた少年を、療養も兼ねて日本へ…と呼び寄せたのが九頭竜だった。
 一人娘が嫁いだ久世家の三兄弟は、連休や長期の休みには必ず九頭竜の本家へ訪れる。それに合わせてネーヴェも日本に遊びに来ればいいとの誘いに、家族のように互いを想い合う間柄のエンブリオーネは手放しで喜んだ。
 そして遥々イタリアからやってきた雪のように白く美しい少年は、自分と同じ名前を持つ、二つ年下のやんちゃな少年と出逢ったのだった。


「同じように空手やっても、結局ネーヴェのほうが大きくなっちゃったよなー」


 雪耶が、九頭竜の元でヤクザになったばかりの瀬名に実戦空手を習っていると知って、自分もやってみたいと言い出したネーヴェは、その後、二年間を日本で過ごし、本国イタリアへ帰る頃には、来日当初よりひと周り以上も大きくなっていた。
 とは言っても、無駄なく付いた筋肉で引き締まった肢体に相変わらずの美貌が重なり、猛禽類のような鋭い一撃で相手を倒す武道家とはとても思えない容姿には変わりない。


「僕は、小柄な体型を生かした、俊敏で、相手を翻弄するような雪の戦い方が好きだよ」
「俺はもっと筋肉がついてて、背の高いほうがいいの!」
「…ふぅん」


 雪耶の言葉に納得いかないような返事をしながら、ネーヴェは、細くしなやかではありながら、はっきりとした筋肉が付き難く、未だ少年らしさが抜けない雪耶の身体に腕を巻き付けたまま「今のが可愛くていいのに」と呟いた。
 それを雪耶が聞き咎めて、拗ねたような顔をする。


「美人のネーヴェには、わかんねーよ」
「美人?」
「ネーヴェは、顔は女の子みたいに綺麗だけど、背も高いし、体つきも男らしいしじゃん」


 モデルみたいで美人だよ、と言いながら顔を近づけて覗き込んでくる雪耶を、ネーヴェは見詰め返した。
 二人の兄と腹違いの雪耶は、色素が薄く肌の色も白い。瞳は自分と同じ琥珀色だし、細くて柔らかい癖っ毛は黒髪ではなくヘーゼルに近い明るい茶色で、顔の造りや体型を比較すれば、欧米人と日本人の差ははっきりと出てくるが、一緒に並ぶと、雪耶は久世家の兄達よりも自分のほうにずっと似ている気がする…とネーヴェは思う。
 ふと、ネーヴェの胸に悪戯心が芽生えた。


「雪…来てみて」


 そういうと、ネーヴェは自らも立ち上がりながら雪耶の手を引いて鏡の前に連れて行った。
 縦長で全身を映し出す鏡の前で、雪耶の斜め後ろにネーヴェは立ち並ぶ。
 温暖な地中海気候の土地に生まれながら、どちらかというと北欧人種のように透き通る白い肌のネーヴェと、似たような白さの肌を持ちながらも少年らしい、弱々しさを感じさせない雪耶。
 互いに猫のようなアーモンド型をした大きな目と、小さめだが桜色でふっくらとした唇、背格好は違うけれど、同じようにセンター分けした髪型で並んでいると、本当の兄弟のように見える。


「こうして並ぶとね」
「…ん?」
「雪が僕の弟だったらいいのにっていう想いが、本当かも…って思えてくる」
「……」


 鏡に映る雪耶の瞳が、訝しげにネーヴェを見詰める。
 ネーヴェは、鏡の中の雪耶の表情をうっとりと見詰め返しながら、耳元で囁いた。


「昔はさ、悠や季のパパやママン、それから雪のママン雛乃は、よくイタリアへ遊びに来ていたらしいよ。」
「……」
「僕のファーストネームは、日本語に訳すと『雪』だ」
「……ネーヴェ?」


 鏡に映る雪耶の眉が、不安げに寄せられる。
その表情に、少しずつ自分の気持ちが高揚してくるのを、ネーヴェは押さえきれなくなってくる。


 生後間もなく母親を亡くしたネーヴェは、物心ついたときから一人ぼっちだった。周りの大人はみんな優しくて甘やかしてくれる人ばかりだけれど、それでも、ろくに友達も居ない、学校にも行かず家庭教師から英才教育を受ける身には寂しさが募っていくばかり…。
 そんな多感な少年期に出逢った、小さくて、表情豊かで、可愛い外見に似合わずやんちゃな雪耶。日本で一緒に暮らした二年間は、ネーヴェにとっては宝物に近い。

 ネーヴェはもうすぐ18歳になる。
 18歳になれば、正式にエンブリオーネ・ファミリーの一員として「子供」だった自分を棄てなくてはならない。
 マフィアの世界に身を置いた自分と、日本マフィアの九頭竜会を纏め上げるボスの孫でありながら、平和な世界で高校生活を送る雪耶とでは住む世界が違いすぎる。今までのように気楽に逢うことすら出来なくなっていくだろう。
 手に入れた宝物をそう簡単に手放したくない…と願うのは、至極まっとうな想いではないだろうか?


「雪…」


 そっと耳元で名前を呼びながら、ネーヴェは少年を背中からギュっと抱きしめた。鏡に映る自分を見て、なんて無慈悲で身勝手な笑みを浮かべているんだろうと思うが、それでも突き動かされる情動を止められない。
 次に発せられるネーヴェの言葉を待ちながらも、少しづつ色を失っていく雪耶の表情が、ネーヴェの気持ちをさらに煽っていく。


「雪…知りたくない?…僕らの関係を」
「…っ」
「僕らの本当の秘密…」


 本当は二人の間に秘密など何もない。
 だが、自分の言葉にびくんと身体を震わせる雪耶を腕に抱いて、ネーヴェは誰にも見せたことのない、深く艶やかで、嗜虐的な甘い笑みを湛えながら、鏡の中の雪耶をじっと見詰めた。

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テキスト by 辰城百夏

このお話は◆ Piccola stanza segreta ~小部屋の秘密~ ◆とリンクしています。
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