Möelva-B×B-

絵師集団ciliegioによるオリジナル作品オフィシャルブログです。男同士の恋愛が苦手な方は閲覧をご遠慮ください。

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クラブサンド・ブルース 3

「…瀬名さん、痛いって」


 叩かれたような音も無いまま、雪耶の台詞に目を開く。
そこにあったのは、雪耶をすっぽりと包み込むように抱きしめた瀬名の姿だった。


「雪耶さん…本当に…心配をさせないで下さい。学校から連絡があった時は、心臓が止まるかと思いましたよ」
「…ごめん…なさい」
「季耶さんから、お弁当を作って行かれたとお聞きした時に、こんな事態があるかもと気づけば良かった」
「そんなの…無理じゃん?」
「無理なことなどありませんよ…俺もまだまだ甘い男です」


 雪耶が叩かれることなど無かったことに安心はしたが、それ以上に瀬名の雪耶に対する行動に、山本はいつもながら感心する。
 川田が、思いがけない雪耶の行動に厳しく言うのは当然のことなのだ。
 瀬名でさえこのやんちゃなお坊ちゃまには手を焼かされている。だから瀬名も、雪耶に厳しく言わなければならないときは思いっきり叱っている。

 だが、瀬名と川田の決定的な違いは雪耶への精神的フォローだ。

 雪耶がどんなに恵まれた環境に生まれ、どんなに幸せで愛情一杯に育てられているか、山本や川田からみれば充分すぎるようにしか思えない。
何が不満で周りの人間を困らせる必要などあるのか。
素直で大人しく良い子でいて当然じゃないのか…と。

 瀬名の雪耶への対応は、そんな環境にある人間へ向けられるものとは明らかに違っている。

 極道の祖父を持っていること以外に、自分たちのまだ知らない、知らされていない何かを、このやんちゃな少年が抱えているということを瀬名はちゃんと解っているのだろう。
 雪耶のことを一心に受け止め、理解し、精神的な部分をきっちりとフォローしながら前を向かせることのできる瀬名の気遣いは、瀬名に憧れている川田には到底、真似の出来ないことなのだ。

 瀬名の束縛をやんわりと解いて、雪耶が俯き加減で呟いた。


「あのさ…」
「なんですか?雪耶さん」
「山本さんと川田さんは、悪くないから…」


 小さな声で、自分のSPを庇う。


「…解っています。さ、校内に戻りましょう」


 瀬名は雪耶の心情を察したように返答して、おもむろにセドリックの屋根に上り始めた。そのまま雪耶にも登ってくるように手を差し出す。
手を取った雪耶を引き寄せ、彼を軽々と抱き上げたかと思うと、そのまま肩に乗せてやる。
 学校の塀は結構な高さがあったが、セドリックの上に立った瀬名の長身、プラス、その肩に立ち上がった雪耶にならば、塀はなんとか越えられそうだ。


「えっ!? 瀬名さん、裏門が直ぐそこに…」
「馬鹿野郎、あそこを通ると抜け出した理由の尋問が待ってるだろうが」


 瀬名に指摘されて、川田は初めてそれ気付いたようだ。
 どこまで行っても自分たちは、瀬名の雪耶への気遣いに追いつけない。山本は、改めて見せ付けられるそのことに、胸が苦しくなる。

 命を張ってこの小さな少年を守れ、と瀬名に言い渡された最初の日、少年にSPが付かなければならない理由を教えられた。

 久世家の人間には全員、九頭竜会が用意したSPが張り付いている。
 大人である他の家族でさえ、四六時中監視が付くのに耐えられない時もあるだろう。
況してや、思春期の少年にとってはウザく感じる事この上ないはずだ。仕方ないことなのだと割り切ろうと思っても割り切れない不自由さに、この少年は耐え続けなければならない。
 それでも、彼は自分たちに親しみを向けてくれる。笑顔を向けてくれている。そのことが山本には嬉しかった。極道という道に落ちた自分たちを必要としてくれる人間がいる、そのことが山本には一番嬉しかったのだ。だから雪耶を命を賭けて守っていこうと決めた。

 だが、瀬名の雪耶への行動を目の当たりにすると、その誓いが子供染みたものであると気付かされ、山本の胸を締め付ける。
 何時か雪耶や瀬名に、自分が不要であるという烙印を押されてしまうのではないかという不安を拭えなくなる。それが、今まで人に必要とされない少年時代を送ってきた山本や川田にとって一番の恐怖だからだ。
 川田が必要以上に雪耶に厳しく言うのも、山本が雪耶に甘くなり過ぎるのも、その恐怖から逃れる為に他ならない。

 瀬名の肩に立った雪耶が振り向いて、セドリックの横で見上げながら立ち尽くす二人に声を掛ける。

「山本さん、川田さん、お弁当、良かったら食べてね」
「! も、もちろんです!」
「…心して頂きます」


 はっ…となって答える二人に、雪耶は嬉しそうな笑顔を残して塀の上に飛び乗った。
 その瞬間、向こう側から大きな手が出てきたかと思うと、雪耶の両脇を抱えて校内側に引っ張り込んでいった。
山本や川田だけでなく、瀬名までもがぎょっとなって塀を見上げる。
壁の向こうから聞えてきた声に、瀬名の表情がむっと曇った。


「うわっ! りょ…寮長さん!?」
「許可無く学校を抜け出すとは、度胸がありますねぇ、久世雪耶」
「いや…えっと…その…」
「裏門を通らなければ尋問を受けなくていい…というのは甘いですよ」
「…ちょ、寮長さんっ!?」


 先ほど放った台詞への明らかな挑戦とも思える声に、塀を背にして立っている瀬名の眉間に皺が寄る。その表情が怖すぎて、山本と川田の額に冷や汗が浮かんでくる程だ。


「さて、昼食はまだでしょう?久世雪耶。私もまだですからカフェで一緒にどうですか?」
「わっ…解ったから、寮長さんっ!下ろして下さいっ!下ろしてってばーっ!」


 遠ざかっていく声を背に、瀬名の周りの温度が急激に下がったような気がする。


「…お前ら。この失態、どう繕うつもりだ」


 凍った棘が全身に刺さるような冷たく低い声が響く。
それでなくても長身の瀬名に上から睨み下ろされたら縮み上がるほどなのに、壁の向こうから煽られた後の瀬名にセドリックの上から睨まれた山本と川田は、もう生きた心地がしない。
喉も渇いてヒリ付くようで、まともに声も出せそうにもない。


「…も、申し訳…ありません」


 頑張って搾り出した山本の声は、掠れてみっともなかった。
 事の起こりがやんちゃな雪耶の襲撃から始まったことでも、それに対応する自分たちに、思い返せば落ち度は沢山あった。
 言い訳が通用するほどこの仕事は甘くない。
人の命を自分の命で守っているのだ。
どちらを失ってもSPである仕事は失敗に終わる。
 二人の男は、自分たちの失態に科せられる罰を覚悟した。


「ーったく。雪耶さんの作った弁当、責任もってお前らが戴けよ」
「「…えっ!?」」


 思いがけない瀬名の台詞に、二人は同時に驚いて声をあげた。


「…雪耶さんの手作り弁当が喰えるなんて…羨ましいくらいだ」


 瀬名の不愉快そうな顔に、山本と川田は顔を見合わせる。
 セドリックの屋根から下りてきた瀬名は、急いで飛ばしてきたのだろう、車近くに横付けしてあったバイクに跨り、ヘルメットを被った。
 車よりは小回りの利くバイクを選ぶ瀬名の判断は的確だ。
それも一重に、雪耶への安否を常に気遣う瀬名ならでは…というところか。
 「お疲れ様でした」と頭を下げる二人には、その場を離れていく瀬名の口元に浮かぶ、意味ありげな笑みを見ることは出来ない。


「…はぁ。お咎めなし…だなんて、今回は命拾いしたな」
「つか、10年は寿命が縮んだぜ…」

 セドリックに凭れて、いい大人がぐったりと額の汗を拭う。

 ぐ~~~~~~~~~~~~~~~っ!!

 安堵と共に、二人の腹から一斉にムシが啼いた。
互いの顔を見合わせて、ニヤっと笑った。


「川田、雪耶さんの折角の気持ち、戴きますか!」
「そうだな、山本。瀬名さんも羨ましがるくらい滅多にないことかも」
「有難いことだよな、俺たち」
「あぁ。必要とされるってことが、こんなに嬉しいとはな…」
「うん…」


 傷だらけの、雪耶の手を思い出す。
 後部座席に置かれたままのランチボックスを開けると、サラダや鳥のから揚げと共に、こんがりと焼かれたクラブサンドが並んでいた。
 兄の季耶に手伝われながら、慣れない手付きで作られたのだろう、少し具がはみ出したりしたそのクラブサンドを、一口頬張る。


「…うめぇ」
「…うん」


 山本の胸が、再び熱くなる。
 過去の自分たちを振り返ると、恥かしいほど愚かだったと思う。
極道の世界に身を置く事になった人生も、愚かだと思っている。それでも、九頭竜会に拾われた事には感謝している。
 臭い言葉かもしれないが、「青春」と呼べる時間に味わえなかった温かさが、今味わえることが二人には本当に嬉しかった。
 山本が、そっと川田を伺い見ると、彼の瞳に薄っすらと涙が浮かんでいた。その姿に山本もぐっと来る。


「…うっ」
「?…どうした?川田」
「…や…やられた」
「はっ?」
「…み…水…山本…水っ!」
「えっ!? 水ー? お前~、喉に詰まらせたのかよ」


 慌てて喰うからだよと言いながら運転席横のカップホルダーに手を伸ばしつつ、山本は手に持ったクラブサンドをまた一口頬張った。


「…!? うっ!」


 何が起こったのか解らずに口の中の状態を確かめようとしている山本の手から、川田がペットボトルを奪い取ったかと思うと、猛烈な勢いで水を流し込んでいく。


「うわっ!? 何これっ! か…辛ぇっ! 川田っ!水っ! 俺にも水っ!」


 ひー、ひー、言っている川田の手から、今度は山本がペットボトルを奪い取って、口に水を流し込む。
 香辛料の辛さが苦手な川田は、トレードマークの眼鏡を外し、ぽろぽろと零れてくる涙を拭いながらシートに凭れて死にそうになっている。
 山本は半分残った手元のクラブサンドを開いてみて、唖然となった。


「…くそっ! やられたぜ…あのガキっ!」
「うひーっ! このマスタードの量、ハンパねーよっ!」


 二人は残ったランチボックスを見詰めながら、先ほどの瀬名の言葉を思い出す。


(…雪耶さんの作った弁当、責任もってお前らが戴けよ)


 こういうことか。
 瀬名は気付いていたのだ、雪耶の悪戯を。
 山本と川田は顔を見合わせ、その後、同時に噴出した。


「ーったく、敵わねーよな」
「ほんと…敵わねーよ」
「翻弄されっぱなしだ、俺たち」
「あぁ…悔しいけど、でも」


 でも、やっぱり憎めない。
 自分たちに居場所をくれたのは、瀬名と雪耶と九頭竜会だ。
やんちゃな少年を紹介されてからの自分たちは、以前よりずっとまともに生きてこれた気がする。
人を大事に思うことや、誰かの為に生きることへの覚悟、そして命の尊さ。それらを少なからず教えられてきた。
そんな場所に居られることに感謝している。
 山本は、ランチボックスから残ったクラブサンドを取ると、そっと中身を開いてみる。
どうやらそれはマスタードサンドではないようだ。川田も他のサンドを開いてみたが、どれも普通のクラブサンドのようだ。

 山本は並んでいるものの端から取って食べる癖がある。
そして、川田は山本が取った反対側から自分のものを取る癖があった。

 二人は自分たちが守っている少年の、自分たちへの感心の深さと観察力の鋭さに舌を巻いた。
そして、彼を守る為ならば、この命を精一杯張って生きようと、改めて誓うのだった。

 

the END

テキスト by 辰城百夏

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