Möelva-B×B-

絵師集団ciliegioによるオリジナル作品オフィシャルブログです。男同士の恋愛が苦手な方は閲覧をご遠慮ください。

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クラブサンド・ブルース 2

「馬鹿、ホルスターから手を離せ。よく見てみろよ」


 川田が顎で示したフロントガラスの向こうを見て、山本は唖然としてしまった。
 秀でたおデコをガラスにめいっぱいにくっつけ、大きな瞳と悪戯な笑顔でこちらをじーっと見詰めている少年が、ボンネットの上で胡坐を掻いて座っている。


「…っ、ゆ…雪耶さん!?」
「どうやら塀の上から飛び降りてきたみたいだな」
「んな悠長な事言ってる場合かっ! まだ学校終わってねーだろがっ!」


 そう言って、山本は慌てて助手席から飛び出す。
 あっては欲しくない何かがあったときでも、ちゃんと車を発進させることが出来るように、運転席は常に塀側になるよう停めてある。必然的に助手席の位置は外から狙われやすいということになるが…それでも守るべき人間を少しでも危険から遠ざける為に、運転手は生きていなければならない。
 山本の運転技術は川田よりも上だったが、その役目を自分よりも冷静にこなせるだろう彼に譲っている。川田に生き残る確立の高いほうで居てもらう為…という想いは内緒だが。


「山本さん、川田さん、お疲れっす~!」
「雪耶さんっ!何してるんすかっ!?」


 車から飛び出した山本と、車内の川田を交互に見ながら、雪耶と呼ばれた少年はにこにこと可愛らしい顔を向けてくる。
 色素の薄い明るい髪と白い肌、小柄で成長途中の少年らしい肢体、大きなアーモンド型の目とほんのり桜色の小さな唇。その外見からは判断し難いが、瞳にはやんちゃな性格がありありと浮かんでいて、一筋縄ではいかない意志の強さが見て取れる。
 この少年が、瀬名や組長以上に心に気に掛ける山本の「大切な」人だ。

 久世雪耶

 極道の愛娘と華道家の男の間に生まれた、将来、九頭竜を背負って立つ…かもしれない、久世家の三男坊。
 前妻との間に生まれた長兄の悠耶は海外で売れっ子華道家として活躍し、次兄の季耶は九頭竜のグループ企業数社の運営を任され、院生と社長業の二束草鞋。それだけでも凄い家族だと思うが、この三男坊のやんちゃぶりときたら…。


「今日さ、季兄が大学休みだからってお弁当作ってくれたんだ。山本さんと川田さんの分もあるから、一緒に食べよう?」
「うわっ! マジっすかー!?」


 雪耶の笑顔に釣られて諸手を上げて喜ぶ山本の後頭部を、後ろからぽかっと殴った川田が、厳しい顔で雪耶に説教を始める。


「雪耶さん、むやみに学校を抜け出してはいけません。変な輩にスキを突かれたらどうするんですか」
「大丈夫だって。ちゃんと上から確認済みだもん」
「その過信が命取りにもなるんです。桜華学園はセキュリティ面も万全です。学校にいる間は、この車の中よりもずっと安全な場所で雪耶さんは守られているんです。」
「お…おい、川田」
「…っ。 そんなこと…」


 川田の言い分は最もだ。
 四六時中SPに張り付かれている高校生なんて、滅多に居ない。
 雪耶にとって学校に行っている間だけが、本当に一人、自由になれた気分で居られるだろうと、山本は思う。それは、暗に雪耶の身を確実に守ってくれているということに他ならない。
 だが、学校の友人たちとは別に、身近な人間が傍に居ないということもまた事実。
 九頭竜会の組長である雪耶の祖父、久世家の家族だけでなく、瀬名や自分たち舎弟の誰もが雪耶を大事に思っている。そしてその愛情を一心に受けている雪耶だ。一人…という自由は気持ちいいだろうが、与えられている愛情と比例して募る寂しさも生まれる。

 「束縛」というのは、そういうものだ。


「…そんなこと、解ってるよ」
「あー、外はあれだ。とりあえず車の中へ入ろうぜ。さ、雪耶さん」
「ーったく。山本は甘い」


 ぷーっとふくれっ面の雪耶を、より安全な後部座席に押し込んだ山本の後ろで、川田がぼそっと呟いた。


「お前が厳しすぎるんだよ、川田」
「瀬名さんに比べりゃ、俺なんかまだ甘いほうだ」
「……」


 川田の顔をじっと見た山本は、違うんだなぁ…という言葉を溜飲して、押し黙ったまま雪耶と同じ後部座席へ乗り込んだ。


「雪耶さんと一緒に昼飯なんて、嬉しいっすよ、俺」
「…いいよ。そんな無理しなくても」
「いや、ほんとに嬉しいんですよ。いつも川田と二人、コンビニモノで済ましてるから」


 人好きのする屈託のない笑顔で、山本が雪耶の機嫌を取っている間、川田が運転席側に乗り込み、助手席のシートを倒してスペースを広げる。
山本の台詞に、余計な事を…と川田は思ったようだが、雪耶の表情もその言葉でにわかに曇る。


「……ごめんなさい」


 やんちゃな坊ちゃんの突然の謝罪に、山本と川田は呆気に取られて、互いの顔を見合わせた。


「…その、ちゃんと解ってんだけど」
「雪耶さん?」
「…だから」
「……」


 口ごもる雪耶の顔を見入ってしまう二人の視線に、少年は恥かしさで頬を染めながら俯いた…かと思うと、意を決したように、がばっと顔を上げて叫ぶように言い放つ。


「…だからっ! コンビニモノじゃないもの、一緒に食べようって思って作ってきたんだよっ!!」
「……」


 雪耶の、言葉の最後に踏み込んだ足の衝撃で、黒塗りのセドリックがガタっと揺れたかと思うと、その後、しーんと静まり返る。


「へっ?」
「…作っ…たっ…て?」
「うわっ!」


 しまった!という表情のまま口元を隠す雪耶を、二人の男が呆然と見詰める。
 よくよく見ると、彼の手には小さな切り傷や火傷の赤い痕が付いている。山本はぐっと胸を締め付けられるような感覚とともに、不覚にも目頭が熱くなった。


「雪耶さん…」


 感慨深い想いで、少年の名を呼ぶ山本の声を遮って、川田の醒めた声が車内に響いた。


「雪耶さん、俺たちは仕事で貴方のSPに付いているんです。貴方に日々怪我や事故が無ければ俺たちはそれでいいんです。」
「…川田っ!!」
「貴方が危険を冒してまで俺たちを案じる必要なんてないんですよ」
「川田!そんな言い方はねーだろっ! 雪耶さんは…」


 明らかに機嫌を損ねた表情の雪耶を横目に、本気で俺たちのことを想って…という台詞を山本が声にする前に、後部のドアがいきなり開いた。
 ロックし忘れていたのに気付いて、一瞬にして血の気が引く。
…が、開いたドアの向こうに立っている人物が目に飛び込んできて、今度は心臓が凍る。

「お前ら、何やってんだ?」


 低く響いて良く通る声は、明らかに怒気を含んでいて、山本と川田はごくん…と唾を飲み込みつつ、そこに立つ瀬名を見詰めた。 


「学校から、雪耶さんが塀を越えて逃亡したと連絡があって飛んできてみれば…お前ら何の為にここで待機してるんだ」
「逃亡ってなんだよっ!逃亡なんかしてねーっつーの!」
「校内から無断で出れば逃亡と一緒です。もしものことがあったら、どうなさるおつもりですか、雪耶さん」
「…どうって…自分でどうにかし…」
「無理です、貴方には」
「むーっ! なんでそんなに言い切れるんだよっ!」


 瀬名と雪耶のやり取を前に、かちんこちんに固まった二人の男は動けずにいる。
 この状況を瀬名に見つかったという事は…自分たちの失態をどう繕う事も出来ない状況にあるということだ。どんな罰が待っているのか、考えただけでも心臓が止まりそうだ。


「山本、降りろ」
「はっ…はいっ!」


 山本の退いた後部座席から雪耶をひっぱりだした瀬名は、誰もが恐れる鋭い瞳で雪耶のことを見下ろす。
が、雪耶はそんな瞳も恐れずに、相手のことを睨み返すように見上げている。
 雪耶の度胸には感心するが、本気で瀬名が怒ったらどんな事態になるかを知っている二人は気が気ではない。
 瀬名の大きな手が持ち上がった瞬間、雪耶が打たれるのではないかと目を瞑ってしまった。

 

to be continued

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