Möelva-B×B-

絵師集団ciliegioによるオリジナル作品オフィシャルブログです。男同士の恋愛が苦手な方は閲覧をご遠慮ください。

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3.【Premonition ~in summer】

盛夏である。

毎日暑くて溶けそうである。

暑いのは苦手なので、ついエアコンが効いた部屋に閉じこもりがちになってしまう。
それはさすがに社会生活を営む上でどうかと思うので、ひさしぶりにショッピングにでも行こうかと、小春は萎える気持ちを叱咤して、身支度を始めた。

お気に入りの黒いノースリーブのワンピースを身につけ、念入りにメイクをした。
夏にぴったりな籐素材のバッグを取り出し、靴は迷った末、ウエッジソールのサンダルをチョイスした。
コーディネイトが思い通りに行くと、気持ちも上向きになる。仕上げに軽い香りのトワレを吹き付け、 力強く輝く太陽の下に一歩を踏み出した。


小春はお洒落が嫌いではない。
ブランド品には興味がないが、可愛い洋服や、季節毎に新色が出る化粧品、毎年流行が変わるバッグや、 靴の類を眺めていると時間を忘れるし、心が浮き浮きする。
収入の多くはやはり趣味につぎ込んでしまうので、お洒落に使える資金は決して多くはないのだが、 限られた軍資金でどのアイテムを買うかを厳選している時間さえも楽しみのひとつだ。

今回のターゲットは、夏向きのパンプスと、職場にも着ていけるちょっとコンサバティブなカットソーである。
それと、今度の小説ではサラリーマンが登場するので、スーツを眺めるのもイメージが沸いていいかもなぁと 思い、紳士服売り場にも寄ることに決めた。


目的地の百貨店に着いて冷房の効いた店内に滑り込んだとたん、思わず
「はぁ~」
とため息をついてしまった。汗がすぅっと引いていく。入店した他の客も皆一様に
「うわぁー涼しい~!」
と歓声をあげている。
この外界と屋内の温度差はどうよ・・・都会のジレンマだよね、と内心呟きつつ、
目的の品物を求めて売り場を目指した。

小春は買い物は好きだが、時間をかけるのは好きではない。
一通り見て回って思い通りの商品が見つからないときはいさぎよく帰ることにしている。

しかし今回は運がいいことに、パンプスもカットソーも気に入ったものを見つけることができた。順調だ。
通りかかったついでに立ち寄った化粧品カウンターで、なにげなく新色のアイシャドウを見てみたら、思ったより良い色だったので、それも買うことにした。

買い物はうまくいって気分は上々だ。あとはスーツを眺めて一休みしてから帰ろうかと、紳士服のフロアを目指して再びエレベーターに乗った。

婦人服フロアと違って、ここは人口密度が低くて雰囲気もぐっと落ち着いている。
そこに女性ひとりでいるとやけに目立ってなんだか居心地が悪いのだが、
普段の生活でスーツ姿の男性と会う機会があまりない小春にとっては貴重な情報収集の場だ。

いかにも用事がありそうな顔をしてゆっくりと歩きつつ、ワイシャツの襟の形のバリエーションやネクタイの柄などを子細に観察した。
いちいち小説で登場人物の服装を細かく書き込むわけではないが、イメージは具体的なほうが筆も進むし、センスのいいアイテムや着こなしは、やはり実際に目で見ておきたい。

マネキンが着ているコーディネイトを、自キャラにそのまま着せて妄想に耽っていたとき、視界の端が見覚えのある人物を捉えた。

「あ・・・」
思わず小さく声が漏れた。

数ヶ月前、自宅で飼っていた猫を、教え子に貰ってもらったことがある。そのときに初めて会った人。
たしか、名前は・・・
小春の視線に気づいた人物がこちらを振り返るのと、彼の名前を思い出したのは同時だった。

「西門さん・・・?」
「これは先生」
ふたり同時に言葉を発し、そのタイミングの妙に、思わずふたりとも吹き出してしまった。

この暑さにも関わらず、やはり西門は一分の隙もないスーツ姿だった。
ゆっくりとこちらに近づいてきて、
「奇遇ですね。」
とにっこりと笑いながら声をかけられ、小春は少し気恥ずかしく思いつつ
「先生だなんて、ここでは恥ずかしいです。私、藤巻と申します。」
と改めて自己紹介をし、ぺこりと頭を下げた。
西門は
「ああ、これは失礼致しました。藤巻さんとお呼びしても?」
と、丁寧にも断りを入れて、お伺いを立てるように少し首を傾げて小春の顔を見た。

普段、野獣一歩手前のような男子高校生ばかりを相手にしている小春は、西門の紳士的な所作や言動に、大げさでなく目眩がしてきた。もちろんうれしさのあまりに、である。

「ええ、それはもちろん・・・えっと、今日はですね、父に誕生日プレゼントでも、と思って色々見ているところなんですよ。」
女性ひとりで紳士服フロアにいることを変に思われやしないかと、聞かれてもいないのに言い訳がましい言葉が口をついて出てしまった。しかも小春の父の誕生日は秋なので、思いっきり嘘である。まさか、マネキンを見て妄想してただなんて、生徒の父兄に知られるわけにはいかない。

そんな小春の胸中など知るよしもない西門は
「お父様思いでいらっしゃるんですね。良い品は見つかりましたか?」
と眼を細めた。この誠実そうなひとに小さな嘘をついたことが、小春の罪悪感をあおり、余計に言動があやしくなってしまう。
「ええと、そうですね、でも今日はもういいんです。まだ日はありますから。
ところで西門さんはもうご用はお済みでいらっしゃるんですか?」
なんとか話の接ぎ穂を、と焦るあまり、つい立ち入ったことを聞いてしまった。
「はい、必要なものは揃いましたので。」
とあっさり返され、小春はなぜかとても残念な気持ちになった。

この人と、もうすこし話をしてみたい。

そう思った瞬間、
「あの、お時間大丈夫だったら、すこしお茶でもいかがですか!?」
と口走ってしまった。

「あのとき、猫たちを迎えに来て下さった上に、大事に育てて下さってる、って英くんからも聞いてるんです。
そのお礼も申し上げたいし、あの、ご迷惑じゃなかったら・・・」
西門は少し目を見開いて、驚いたような表情で小春を見たが、
「それは恐縮です。私で良ければお付き合いさせていただきます。
ああでも、猫たちの世話をしているのは狂司郎ですよ。私は触らせてももらえません。」
と微笑みながら返事をした。そして、
「ええっ!?英くん、そんなことひとっことも言わなかった!」
と驚く小春の様子を見て、こらえきれないという様子で破顔した。

笑うとすごく優しい雰囲気になるなぁ、と小春は思った。


「それにしても、英くんが猫たちの面倒をみてくれてるとは思いませんでした。」
百貨店内のフルーツパーラーにふたり向かい合って座っている。
ここに来た時は決まって季節のフレッシュフルーツがたっぷり乗ったパフェを食べる小春だが、さすがに今日はそんな子どもっぽいものを頼む勇気は出ず、アイスティーをオーダーした。
向かい側で優雅にコーヒーカップを口に運んでいる西門を、小春はこっそりと観察する。

少し細めの形の整った眉毛の下に、切れ長の目。長さはそれほど無いが、密度のあるまつげが目の周りを縁取っていて、目元の印象をシャープにみせている。
鼻梁もすっきりとしていて高い。唇の薄い口元は引き締まっていて、おとがいがしっかりとした男性らしい輪郭と相まって、黙っていると隙のない印象だ。
少しだけくせのある黒髪は嫌みのない程度にセットされていて、清潔感がある。
おまけに、7センチ近くヒールがある靴を履いている小春よりもずっと背が高いことが改めてわかり、かなりの長身であることも伺い知れた。

「狂司郎は自分で決めた事はちゃんとしますからね。
猫たちもそれはよく懐いていて、彼が家にいる時は傍から離れないんですよ。以前お持ちした写真も、すべて本人が撮ったものなんです。」
「エッ、写真もそうだったんですか!?英くんったら、なにも言わないもんだから、私てっきり・・・ホントにあんにゃろ・・・」
思わず小さく呟いた小春を見て、また西門がフフッと笑う。
「あ、すみません!」
と小春は口もとを押さえ、上目遣いに西門を見上げながら
「なにしろ男子高校生ばかり相手にしてると、つい言葉が悪くなっちゃって。
英くんが猫たちと仲良くしてるのはとっても嬉しいんです。私から頼んで貰ってもらったのに、
うまく行ってなかったら本当に申し訳ないってずっと気になってたし。」
と弁解した。

「その心配は無用と思いますよ。猫たちが来てからというもの、きちんと家に帰って来るようになったので、私どもはむしろありがたいと思っているくらいですから。」
西門のなにげないひと言で、小春は狂司郎の過去にまつわる噂を思い出した。

中学時代は手の付けられない非行少年だったと聞く。
現在でも決して品行方正というわけではない。さすがに暴力沙汰を起こすことはないが、気まぐれで授業や学校行事を平気ですっぽかすなど日常茶飯事だ。
不思議と生徒の間では人気があるようだが、それでも教師としては、今の状態が決していいとは思っていない。
学校とは、勉強をしたり、友人を作るだけの場ではない。社会性を育み、ルールを守る大切さを学ぶべき場でもあるはずだ。


「あの・・・」
口調が変わったのを察して、西門が真剣な表情で小春を見た。
アイスティーの中で溶け始めた氷がカロン、と音を立てた。グラスについた水滴をゆっくりとなぞる自分の指先を見つめながら、小春は慎重に言葉を続けた。

「英くんとは、お名前が違いますよね。私、一応彼の家庭環境は把握してるつもりなんですけど、お兄様ではいらっしゃらないようですし、それにしてはずいぶん親しげでいらっしゃるみたいだし、ずっと気になってて・・・。あの、立ち入ったこと聞いちゃってごめんなさい。詳しくは知らないんですけど、おうちの方が、彼の学校生活に関心があまりないようだ、っていうのは同僚から耳にしてて・・・でも、西門さんみたいな方がおいでなら、色々ご相談できそうかも、とも思うんですけど、その・・・」

身内でも保護者でもない関係者ならあまりあけすけな話はできない。狂司郎とどういう関係なのか。
そう聞きたいのだが、ハッキリとは言えない。

グラスを見つめたまま顔を上げない小春の真意を汲んだのか、西門は
「私は英家の遠縁なんです。狂司郎のことは幼少時から存じております。」
と答えてくれた。
小春はホッとして、おおきく息をつくと
「失礼なことお聞きしちゃって本当に申し訳ありません。でも、学園のものは、本当に彼のことを心配してて・・・
私も担任でもないのに差し出がましいですけど、できたらもう少し彼には学園生活を本当の意味で楽しんで欲しい、って思ってるんです。」
と呟いた。

小春のそんな様子を見てしばし思案したあと、西門は
「英の家のことですから、あまり具体的に内情をお話するわけにはいきませんが。」
と前置きをした上で、これまでの狂司郎とのいきさつをかいつまんで教えてくれた。

高校卒業と同時に英家にやってきたこと。
そのとき、狂司郎付きの家庭教師としての役割を与えられたこと。
現在は英家の事業を手伝いつつ、多忙な父親に代わって狂司郎のことを任されていること。
ただ、話題が家庭内の事情のことになると、西門は慎重に言葉を選んで多くは語らなかった。
しかし、少ない言葉の端々から、狂司郎が決して幸せな子ども時代を送ったわけではないことは伺い知れた。

小春は熱心に耳を傾け、時々質問を挟みつつも最後まで殆ど口出しをしないで話を聞いた。
西門が、一時期狂司郎と離れて暮らしていた時期があるので、その間のことはわからないと言うと、残念そうにうつむき、
「きっとその間にも辛いことがあったのよね・・・」
と独り言のように呟いた。


すべて語り終えた時には、西門のコーヒーはすっかり冷め、小春のアイスティーの氷も溶けきってしまっていて、いかに二人が長い時間話し込んでいたのかを伺わせた。

それに気づいた西門が
「ああ、申し訳ありません。もう一杯いかがですか?」
と声を掛け、通りかかったフロア係に、コーヒーとホットの紅茶をオーダーした。

長いこと冷房にさらされて身体がかなり冷えていた小春は、西門の気配りの細かさに驚くとともに、これだけ観察眼があって、さりげなく気遣いできる人物が傍にいるなら、きっと狂司郎もかたくなな心を開ける日が来るのではないかと感じた。

そして、こんなにも近くに心を預けられる人がいる狂司郎を、うらやましいとさえ思った。


温かいティーカップを両手で包みながら
「もし今後、英くんのことでご相談したいことがあるときには、西門さんにご連絡してもいいでしょうか。きっと、お父様やお兄様よりも、西門さんが一番彼のことを分かっておいでだと思うんです。」
と訊ねると、西門はちょっと困ったような顔をして
「私自身は狂司郎様の学校での様子を少しでも知りたいと思いますが、お父上や兄上を差し置いてそんな差し出がましいことは・・・」
と言いよどんだ。
しかし小春は
「いえ、私は西門さんが適任だと思います!きっと英くんも、西門さんのことを一番信頼しているんじゃないかと思うんです。」
ときっぱり言い切った。
その言葉を聞いた西門は
「・・・そうだといいんですけどね・・・」
と、なぜか少し寂しそうに目を伏せた。


「長いことお引き留めしてしまって申し訳ありませんでした。」
自分から誘ったんだから、と言い張る小春には耳を貸さずに支払いを済ませた西門は
小春の為にエレベーターのボタンを押した後でそう言って頭を下げた。

「いえ、こちらこそ・・・しかもごちそうになっちゃってなんだかごめんなさい。」
軽い気持ちで声をかけたのに、ずいぶん西門の時間を奪ってしまった。
うなだれている小春の様子を見て、西門は
「そんな、先生が恐縮されることなんて何もないんですよ。私の方こそ、色々と有意義なお話をお聞かせいただいて、本当に感謝しているんです。」
と少し慌てたようなそぶりを見せた。

いかにも冷静沈着そうに見える西門が動揺している姿を見たら、なぜだか可笑しくなって
「先生じゃなくって、藤巻です!」
と笑顔で切り返してやったら、西門もホッとしたような表情を浮かべた。
視線が合って、どちらからともなく、くすくすと笑い合う。

西門がカードケースを取り出し、
「私の個人的な連絡先です。
もし、狂司郎様になにかあったら、こちらにご連絡いただければ、すぐに駆けつけますので。」
と言って一枚のカードを小春に渡した。名刺のようだ。
「え、私なんかが持ってていいんですか?」
と目を丸くする小春に、
「今日色々お話させていただいて、せんせ・・・じゃなくて、藤巻さんはとても信頼の置ける方だと確信いたしましたので。私、こう見えても人を見る目はあるんですよ。」
と言いながら、小春の顔をのぞき込み、微笑んだ。

その笑顔を見た瞬間、小春の心臓が、ドキリと大きく跳ねた。

まずい。赤面してしまいそうだ。

慌てて視線を逸らせて、カードを大切にバッグにしまい込み、全精力を総動員して平静を装って
「ありがとうございます。」
と言うのが精一杯だった。

エレベーターがフロアに到着して扉が静かに開いた。

「あの」
乗り際に小春は思い切って振り返り、言葉を絞り出した。
「今日のお礼に、今度お食事にお誘いしてもいいですか?」
西門は驚いたように目を見開いたが、笑顔で軽く肯き、片手を挙げてくれた。
その様子を見届けた瞬間に扉は閉まり、あとには心地よい余韻が小春の胸に残されたのであった。
高鳴る胸にバッグを抱きかかえて目を伏せ、小春はおおきくため息をついた。

予感がした。

たぶん、わたしは、このひとをすきになる。

 

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