Möelva-B×B-

絵師集団ciliegioによるオリジナル作品オフィシャルブログです。男同士の恋愛が苦手な方は閲覧をご遠慮ください。

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1.【小春、白豹に猫をゆずる[前編]】

迂闊だった。今まであれだけ気を配ってきたのに、どうして窓を
開けっ放しにしていたことを失念していたのだろう。

無機質なコンクリートの床の上に、授業に使う道具類や模型が無造作に置かれている。
今朝あわてて部屋の隅に寄せたので、少し乱雑になってしまった。
左手の壁を占領している本棚には、高校物理の授業に必要な諸資料や参考文献、
あとは定期購読している専門誌のバックナンバーがぎっしりと詰まっている。
スチール机に椅子が一脚。埃っぽくて狭くて、まったく生活感のない、無機質な空間。

ひとつだけある明かり取りの小窓から差し込んでいる日差しが、
そろそろ夕刻にならんとしていることを告げていた。

椅子に浅く腰掛けている小春の足下で、二匹の猫が丸くなって眠っている。
本来ならここにいるはずのないふたつの塊を見やりながら、丁寧にマスカラが塗られた
長い睫毛を伏せてうつむき、小春は今日何度目になるかわからないため息をこぼした。


つい昨日のことだ。

ここ数日、あまり家事をしていないので、部屋は散らかり放題だった。
おまけに今日は朝から日差しが強くて暑かったし、マンション特有の閉塞感が苛立たしかったので、ベランダに出て、眼下に広がる景色を眺めつつ風に吹かれていたら、少し気持ちが紛れた。

網戸を閉めて小春はパソコンの前に戻り、眉間に皺を寄せてディスプレイの文字列を睨んだ。
長い髪は無造作にうなじのあたりで結んだまま、今着ているシャツとルーズパンツは、
実はゆうべから着替えていない。顔も明け方になおざりに水で洗っただけで、
いつも身だしなみに気を遣ってる小春とは思えない有様である。

原稿の締め切りは今度の土曜日に迫っている。残された時間を考えると、仕事が休みの
今日中にラストシーンまで持っていかないと間に合わない。
もし落としたら、今度の同人イベントで新刊を出すことができなくなる。

仮にも創作JUNE界で大手サークルとして名をはせてる身としては、その事態だけは
絶対に避けたかった。のんびり掃除をしている時間的余裕などない。サイトでもすでに
新刊予定ありと告知してある。

しかし、主人公に大きな心境の変化が訪れる重要なシーンだというのに、どうしてもしっくり来る
表現を思いつかないのだ。もう一時間以上も同じような言葉を書いては消して、を繰り返している。

「あーもう!あたしやっぱり才能ないんだよぉ・・・。」

キーボードの上にがっくりと頭を垂れたそのとき、インターフォンのチャイムが鳴った。
横目で玄関の方を見やる。最近は通販の注文もしていないし、今日は誰が訪ねてくる予定もない。
どうせセールスか勧誘の類だろうと居留守を決め込もうと思った矢先、ドンドンと玄関扉を叩かれた。

「藤巻さん!いるんでしょ!?」

大家の声だった。
慌ててインターフォンのモニタをのぞき込むと、大家が、見覚えのある白と茶色のブチの猫を
抱えて、カメラを睨みつけているのが目に入った。

とたんに血の気が引いた。
間違いなく、あれはウチのくぬぎだ。

とっさにベランダの方を見やると、網戸が細く開いており、初夏の風がさわやかに
部屋の中に吹き込んでいる。

ああ、遂にバレちゃったか・・・


好奇心旺盛な子猫は、いつのまにか、網戸を開けるというスキルを学習していたらしい。

ベランダ伝いに散歩に行った先が、運の悪いことに大家の住まいだったようだ。
部屋に入ってきた大家は、もう一匹、白くて大きな長毛の猫がいるのを見とがめると、
さらに目尻をつり上げた。

内緒で飼っていた猫が一匹ならず二匹もいたことを大家にはこってりと絞られた。
バレてしまった以上、猫たちをここに置いておくわけにはいかない。
実家で飼うことも考えたが、小春の母親は猫アレルギーでしかも動物嫌いだ。とても頼めない。
万事休すだ。
とりあえず、職場に連れて行くことくらいしか小春には思いつかなかった。


私立桜華学園で物理の教師をしている小春には、専用の準備室を使える権限がある。
ここなら誰も来ないだろうと、連れてきた猫たちと、一緒に持ち出したトイレ、フードや皿を置いて、 今日はここでガマンしてね、と猫たちに言い聞かせ、後ろ髪引かれる思いで職員室に行った。

猫たちとかさばる荷物を運ぶために、今日はタクシーでの出勤を余儀なくされた。
小説は結局あれから進まないし、猫のことはバレちゃうし、寝不足のせいかメイクはうまく
乗らないし、いつもは服装に合わせて付け替えるピアスを選ぶ余裕もなかった。
本当に最低の気分だ。
授業中もどうにも気が散って仕方なかったが、なんとか生徒達には異変を気づかれることなく
やりおおせたとは思う。
私事で本業に支障が出るなど、小春のプライドが許さない。

それは小説家としてではなく、
教師として生きていくことを決めたときから自分に課してきた決めごとであった。


いつもより長く感じた一日を終え、小春は猫たちが待つ物理準備室に急いだ。
扉を開けると、二匹はぴったりと寄り添って日の当たるところで眠っていた。
不慣れな場所が不満で部屋を荒らされたかも、という懸念が吹き飛び、小春は安堵する。
と同時に、この二匹が意外と図太い神経の持ち主だとわかって少し拍子抜けした。

「猫って家につくとか言われてなかったっけ?」

ひとりごちて椅子に腰掛け、これからのことを考える。
とりあえずここに連れては来たものの、ずっとここで暮らせるわけではない。
自分の計画性のなさに頭をかかえていたとき、誰かが準備室に近づく気配を感じて、小春は目を上げた。
扉の磨りガラス越しに、ふたつの人影が見える。そして小声でなにか話し合い、一人が扉の前から離れた。
怪訝に思った小春が扉を開けると、そこに立っていたのは学園きっての問題児、英狂司郎だった。

思わぬ人物の出現に小春はあっけにとられ、思わず狂司郎を凝視してしまい、
黙って小春を見下ろしている狂司郎としばらくにらみ合う形になってしまった。

だしぬけに狂司郎が
「・・・なに見てんだよ。」
と低く呟く。

小春ははっと我に返り、
「英くんこそ、どうしたの?ここに何か用事でもあるのかしら。」
と切り返したが、狂司郎は小春の言葉を無視して、視線を部屋の奥に移した。

彼の視線の先では、小春の猫たちが眠っている。

「あれ、何?」

狂司郎の問いかけに、小春の頭がまっしろになった。
返事ができずに立ち尽くす小春の横をすり抜けた狂司郎は、遠慮のない足取りで準備室に入り、猫たちのそばで膝を折り、黙って二匹を見つめた。長い銀髪がさらりと背中から肩口に流れる。

気配を感じたのか、白いほうが目を覚まし、頭をもたげて青い瞳を狂司郎に向けた。
そしてふんふんと匂いをかいだあと、頭を狂司郎の足にそっと擦りつけた。

小春はかなり驚いた。この猫はくぬぎと違って人見知りが激しくて、小春以外の誰にも懐いたことがない。
この状況をどう言いつくろおうかと考えていると、

「コイツ、なんていうの。」
と狂司郎に問われた。

「ライ、って言うんだけど。」
と答えると、狂司郎は黙ってライの頭をやさしく撫でた。

このとき、どうしてあんな図々しいことを言い出せたのか、小春自身にもわからない。
気がついたら勝手に声が出ていた。

「あ、あのさ、英くんさ、猫飼わない!?」

狂司郎は黙って小春をちらりと見やったきり、何も言わない。小春は必死で言葉を続けた。

「あのさ、ウチで飼ってたんだけど、飼えなくなっちゃったのよ。ここで飼えるように寮長さんに頼もうかな、とか思ってたんだけど、やっぱりできたら人の家で暮らさせてやりたいし、ライも英くんのこと気に入ってるみたいだし、あ、こっちの茶色のほうはね、くぬぎって言うんだけど、すっごく人なつっこくて、きっと一緒に遊ぶと楽しいと思うんだよね。猫ってすっごくいいよお。夜は一緒に寝てくれるし、あったかいし柔らかいし。」
最後の方は自分でも何を言ってるのか分からなくなってきた。
狂司郎が猫と遊んでいる姿なんておよそ想像できないし、あまつさえ一緒に寝るだなんて
そんな女々しいことをしたがるはずがない。

言葉を切っておそるおそる狂司郎の顔をのぞき込むと、金色の瞳と視線が合って小春の心臓は跳びはねた。
「・・・やっぱ急にそんなのダメだよね・・・」
うつむいて小さく呟くと同時に狂司郎が立ち上がった。

 

to be continued

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≪湊+狂 蒼白の月に啼く獣1-1
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