Möelva-B×B-

絵師集団ciliegioによるオリジナル作品オフィシャルブログです。男同士の恋愛が苦手な方は閲覧をご遠慮ください。

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◆勝利の味はKISSの味?vol.2◆

 実戦空手をやっているだけあって、雪耶のサッカーの飲み込みは意外と早かった。
一番の問題であるチームメイトとの関係も、嵐がベンチで司令塔となり全体の動きをバックアップするという条件で納得させた。
実際、雪耶の動きを見て他のメンバーも少なからず感心したようで、嵐としては願ってもない好感的な反応だった。


「よう!嵐!腕の調子はどうだ?」


試合当日、観客席から聞きなれた声がする。
ベンチのすぐ後ろに陣取った一団に、振り向いた嵐の顔がちょっと引き攣った。


「…え~っと、もうだいぶ良く…って、みんな試合観にきてくれたんですか?」
「今日は雪耶の活躍を楽しみにしてきたんだよ」
「まぁ…嵐の代役には心もとないが…」
「嵐、今日は試合出れないけど、みんなで頑張れよ!」
「……」


最初に声を掛けてきた、雪耶の次兄、季耶を筆頭に、海外から帰国している長兄悠耶。
嵐の従兄弟の一之瀬彰に、嵐の双子の弟、楓。
何故か学園一恐れられている『桜華の白豹』との異名を持つ英狂司郎までも…。


「…この人達…どんな繋がりなんだよ…」


 溜息をつく嵐の元に、フィールドで身体を慣らしていたメンバーがベンチに帰ってくる。
面々が、観客席にいる先輩や家族の顔を捜しながら、やっぱりベンチ真後ろの一団に引き攣った笑みを見せていた。
しかも、よくよく見ると、今まで試合を観に来ていたことなど無いだろうと思える、学園内で見知った顔までもがちらほらと散らばって見えていた。


「嵐…後ろは気にすんな!」
「ゆっきー、お前って…意外と人気者?」
「…アホ。お目当ては俺じゃねーよ…」
「?? じゃ、誰?」


その問いに、雪耶の顔が鋭くなる。


「俺が喧嘩吹っかけられた相手、覚えてっか?」
「えっ? 私服だったから…あんまり」
「あいつら、千田工業高校の番張りだった」
「えぇーっ!? マヂ!?」


 嵐は驚いて相手ベンチを見る。
端で話を聞いていた他のメンバーもが、ギョッとして相手ベンチへ目を向ける。
サッカーの選手は細身に見えるが意外とガタイはいい。
嵐や雪耶と比べると、背丈も身体の厚みも相手のほうが数段勝っている。
その中の一人と話をしている観客席の生徒の数人に、嵐は見覚えがあった。


「…ゆっきー、もしかして…」
「狂さんが教えてくれた。あいつら汚い手使ってんな…って」
「狂さんが!?」
「俺らの喧嘩…通りすがりに見かけたらしい。後から調べてくれた」
「でも…なんでゆっきーが…?」


不意に雪耶が嵐を正面から見詰める。


「俺が、お前と何時も一緒にいるからだよ」
「…っ!!」
「俺みたいのが嵐と一緒にいるから、目付けられたんだ」
「…でもさっ!」
「お前を直接狙ったら、向こうだってヤバイだろ?」
「…そんなっ」


試合前に、メンバーの表情が硬くなっていく。
サッカーが好き。
それだけで一生懸命やっているメンバー誰もが、理不尽さを感じている顔だ。
不意に雪耶がベンチ後ろに向かって大声を上げた。


「悠兄っ!季兄っ! 今日の俺のポジションDMFなんだぜ!」
「雪がDMF!? マジかっ!?」
「すごいじゃないか雪。 当然、試合には勝つんだよね?」


呼ばれた雪耶の二人の兄が、ニコニコと返事を返す。
二人も事情は知っているのか、嵐の知っている二人の笑顔とは雰囲気が違うのが怖い。
それに…一緒に居る面々、近くに座っているサッカー部の先輩たちの表情も…。
雪耶が相手ベンチに向かって指を差して言い放つ。


「あいつら、ボッコボコにしてっやっから!」
「…ゆっきーっ!煽ってどうすんだよっ!!」
「だって、どうあっても、俺の腹の虫が納まんねーの!」
「ディフェンスの集中砲火浴びるぞ!?」
「…俺が負けると思ってんのかよ?」


どっからそんな自信が湧いてくるのか…嵐は呆れて思わず噴出してしまった。
二人のやり取りを見ていたほかのメンバーからも、「いいね~!」とか「言うね~!」という台詞が上がってきた。
その声に後押しされて、嵐の腹も座ってくる。


「…よし! みんな、裏じゃなんか面白くねー事が色々あるみたいだけど、この試合戴くぜ!」


なんとなく纏まりかけたチームを引っさげて、嵐のベンチでの戦いが始まる。
何時も一緒にサッカーをしているメンバーの動きも、雪耶の動きも手に取るように解っている。

やってやろうじゃん。
汚い手使いやがって。
桜華のサッカーがどんなもんか、思い知らせてやる。


嵐の怪我をしていない方の拳が握られると同時に、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。




 始まった試合は、中盤を迎えて一進一退の攻防が続いていた。

 相手の実力もなかなかだったが、桜華のメンバーの動きは、やはり何時もとは違っていた。
練習の時に叩き込んだ試合の流れや作戦通りに動いてはいても、相手もこちらがフルメンバーで無い事は承知の上だ。不慣れな雪耶への攻撃は想像よりも過激で、相手からボールを奪うのも、自分のチームにボールを繋げるのも、暴力と紙一重なラインで繰り広げられていた。
 当然、他のチームメイトも頑張ってはいるが、雪耶への攻撃がハンパじゃなく、巻き込まれたただけでも煽りを喰らって怪我をしかねない恐怖のために、迂闊に近づけない。
それでも、嵐の的確な指令どおりにメンバー全員が試合に集中していた。
雪耶も持ち前の脚力と俊敏さで相手の攻撃を掻い潜って、嵐の指令に忠実にボールの奪取やディフェンスラインでの役割に専念していた。

 …が。

 後半に入って、得点が上がらないことに焦れた相手側の一人が、雪耶の近くに居たセンターハーフの一人に攻撃するのが目に入った。
嵐が気付いて声を上げるのと、雪耶が動くのがほぼ同時。
チームメイトを庇って無理やり間に入った雪耶の額に相手の肘鉄がヒットするのが、嵐にはスローモーションで見えるようだった。

 反動で、雪耶の身体が吹っ飛ぶ。

 カッっとなって立ち上がった嵐が殺気を感じて後ろを振り向くと、ベンチ後ろの雪耶の兄二人が今にも飛び降りそうな勢いで立ち上がっている。
その二人を狂司郎と彰が何気に押さえているのが見えた。
 余談だが、華道家の家に生まれながらも、悠耶は弓道、季耶は合気道を学生時代ずっと習っていて、その腕前もさることながら、「喧嘩したら俺が負ける」と雪耶が言うほどの実力の持ち主だ。


「ホント勘弁してよ。 マヂで…すげーブラコンなんだから、ここの兄弟っ!」


 嵐のぼやきと同時にホイッスルがなって、審判の胸ポケットから黄色いカードが飛び出した。
肘鉄を喰らわせた相手の選手と、チームメイトに身体を支えられて起き上がった雪耶に、そのカードが向けられる。


「なっ…なんでゆっきーがイエローなんだよっ!!」


 嵐がベンチから飛び出して叫ぶ。
フィールドに居た桜華選手全員も「なんでっ!?」という表情になっていた。
審判の判定は、雪耶の行動も危険行為と見做されたようだった。


「…上手く肘鉄を隠したな」


 観客席からぼそっと、狂司郎の声が響く。
その声に再度嵐が振り向くと、サッカー部の先輩達全員も立ち上がって怒りを顕にしている。
試合前にちらほらと見えた顔見知りの人物たちも、何気に立ち上がっているのが見えた。

 なんか…後ろまでヤバそうな雰囲気なんだけど…。

 ふと、肩を叩かれて嵐が振り返ると、試合等があるときには何故か運動部のマネージャーも兼ねて参加してくる寮長が傍に立っていた。


「一之瀬嵐、ぼーっとしていないでタイムです。久世雪耶、血が出てますよ」
「えっ!?」


 慌てて審判にタイムを告げて、フィールドの傍らに寄った雪耶に駆け寄る。
一緒に来た寮長の片手にはちゃんと救急箱が抱えられていた。
チームメイトも三人の元に駆け寄ってきていた。


「ゆっきー!大丈夫か?傷見せて!」
「嵐…大丈夫、大したことねーよ。ちょっと避けそこねちまった」
「あの角度では避けられなくて当然でしょう」


 肘鉄は目の斜め上辺りに当たったらしく、ぱっくりと開いた裂傷を手早く手当てしながら、寮長が告げる言葉に、嵐の怒りは頂点に達する。


「下手をしたら目に直撃だった…このくらいの裂傷で済んで良かったくらいですよ。久世雪耶」
「…っ!くそっ!!!」
「…嵐? てか…なんで寮長がここに…??」


 雪耶の??を他所に、腕に巻いていた三角巾を投げ捨てると、嵐が大股でベンチに戻る。
監督に何かを告げたかと思うと、いきなりジャージを脱いでスパイクを履き始めた。


「嵐っ!何やってんだよ!?試合に出る気っ?」
「無茶だよ!一之瀬っ!」
「そうだよ!こんだけ荒れてる試合なんだぜ?久世だって怪我したくらいなのに…」
「だからだよっ!!!」


 周りの心配を一喝して、嵐は寮長にテーピングを頼んだ。
無理して捻るとまだ痛いが、しっかりテーピングしていれば、余程変に曲げない限り大丈夫そうだ。
寮長は、気休め程度だが…といいながら、薄いクッション材の入ったテープで肘を補強してくれた。


「おらっ!みんな、タイムアウトだぜ! 高橋、ポジション変わってくれるか?」
「いいけど…一ノ瀬、大丈夫なのか?」
「平気だって! この試合、絶対勝つぞ!一年生だからって桜華のサッカー舐めて掛かるとどんな目に逢うか思い知らせてやるっ! ゆっきー、まだ行けるよな?」
「…行けます。行けますよっ! こうなったらもう何言っても聞きやしねーんだから、こいつ」
「ぶっ。久世って一之瀬の事、ほんと良く解ってんだな」
「俺、久世ってもっと怖くてとっつき難い奴かと思ってた」
「俺も! ホントは優しいヤツなんだな!三田のこと庇ってくれてありがとな!」
「当たり前じゃん! ゆっきーは俺の一番なんだからっ!」
「なっ…!なんだよ!?その…一番って」


嵐の問題(?)発言に、雪耶は一歩下がり気味で戦き、チームメイトはおぉぉぉっ!っとどよめく。

 何?そのどよめき…なんでみんなの目キラキラしてんの?? 寮長もなんでニヤニヤしてんの??

 疑問符だらけの気持ちで雪耶は、みんなと一緒にフィールドに戻る。
ホイッスルが鳴り響き、試合が再開された。
嵐のポジションはフォワード、セカンドトップだ。
サッカーのポジションとしては花形のセカンドトップ。
『ファンタジスタ』と称されるスター選手も、このポジションだ。
将来、そう賞賛される選手に嵐もなっていくのかなと、雪耶は思う。

 どんなに離れても、どんなに遠い存在になっても、嵐とは親友で居たい。

ふと、雪耶の心にそんな想いが浮かぶ。


「ゆっきーっ!」


嵐の声にはっと我に返る。

今は試合に集中しろ、俺。
嵐とみんなの為に、全力を尽くせ。
俺に与えられたポジションが、今は俺の全て。
この間の喧嘩と、嵐の怪我と、額の傷のお礼は、きっちりさせてもらう。

 フィールドを駆ける雪耶の口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
嵐がそれを見逃すわけがない。
雪耶が本気になったのを見て、嵐の気持ちも高揚していく。
嵐の機敏な動きにつられて他の選手の動きも断違で良くなっていた。

to be continued―

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